鬼喰 ― たまはみ ―

第四話 追憶 五

 死んだ。

 言葉は聞こえたが、わたしの脳は理解を拒んだ。

 わたしは彼女と、つい先刻話をしたばかりだ。それに数日前にも。
 幼いころはともかくとして、今のわたしが鬼と人とを見誤るだろうか。
 いつだってわたしは鬼と人を見分けてから対応しているのに。
 麦も何の反応も示さなかったではないか。

 痺れるように麻痺した思考の中で、切り離されたわたしの一部が「だが」といった。

 わたしの目は鬼を映し、耳をその声を聞く。
 志野と初めて会った日のことが不意に思い出された。
 あの日、わたしは志野の影を確かめている。
 いつだって確かめている、ということは、裏を返せば即ち、毎度確かめなければならない、それほどにわたしの認知する世界には、鬼と人との別がないということだ。
 彼女と再会したあの日は曇り空だった。そして先ほどは日暮れ時だった。
 そう、わたしは彼女の影を見ていない。いや、影がないことを不思議には思わなかった。
 別れ際の彼女の顔がああまではっきりと見えたのは、見鬼としての目で見ていたからか。
 しかし、彼女が鬼であれば、どうして麦はそれを見逃したのか。
 ……わたしが言ったのだ。ここの人たちは、鬼となった人も含めみな自分の大切な存在なのだと。
 けれど、彼女が鬼であればわたしのおかしな挙動に目をとめる人がいても良いはずだった。
 だがどちらのときにも、わたしたちの周囲には誰も居なかった。
 違う。一人居る。洋だ。洋は彼女には会っている。
 しかし、洋もまた見鬼だ。
 あの洋が、彼女には挨拶をしなかったことを思い出す。
 あれだけ行儀にはうるさい洋が、まるで彼女などいないかのようにわたしにだけ声をかけ、わたしをあの場から遠ざけた。
 何故か? 彼女が生きている人ではないからだ。
 では中澤さんの友人だと言ったときに見せたあの表情は
『兄さん、あの人は?』
『兄さん……兄さん。大丈夫?』
『その……わかってるとは思うけど』

 わかっていなかった。
 わたしは彼女が鬼だとは気づいていなかった。
 ――あの堂々巡りの思念……あれは鬼となった彼女の凝りに影響を受けていたのだ
 鬼に時は流れない。ただひとつの念を抱えたまま凝り続ける。
 時から置き去りにされた、それが鬼なのだから。

『おい』
 受話器の向こうから響いた怒りを含んだ男の声にわたしは現実に引き戻された。
 わたしは何とか思考に整合をつける。
「……あ、ああ。おかえり、田宮。テストは仕上がったのか」
『ん? ああ? ……って、その声、仰木か」
 誰かと思った、という呟きが聞こえた。
『印刷までは済ませて帰ってきた。後は明日の朝だな。……で、どうかしたのか? 帰ってきたら電話の前で明子泣き崩れてんで驚いたぞ』
 わたしの声を認識したのか、田宮の声から怒りが消え、変わりに訝しげな響きが露になった。
「ごめん、俺が川畑さんのことを聞いて……」
『ああ、それでか』
 と田宮が合点する。
 大丈夫、大丈夫。母ちゃんちょっと昔のこと思い出して悲しくなっちゃっただけだからな、と子供をあやしているらしい声が聞こえた。年長の子に弟妹を任せるらしい様子も伺えた。
 ごく自然な、しかしわたしには馴染みのないその会話に十六年の歳月を強く意識させられた。
『悪いな。あれから五年経つのに、こいつ相当堪えたらしくて。……仲が良かったからさ』
 五年も前に。
『戻ってきて、二年くらいだったな。やっと笑うようになったって明子も喜んでたんだが』  七年目に嫁いだと言っていた。三年足らずでこちらに戻ることになり、それから二年も過ぎないうちに逝ってしまったのだろうか。
『山道で事故ってさ。ほら、笹野から日倉に向かう峠道で』
 枯野の中に見た野菊が、やけに鮮やかな印象とともに脳裏に浮かんだ。
『大きな事故じゃなかったんだが、交通量が少ないだろ。それで見つかったときには手遅れだったらしい。狸か猿か、飛び出したんだろうな。それを避けるためにハンドル切りそこねて、斜面を滑り落ちたんじゃないかって話だ。詳しいことは明子の方が知ってるんだが、これじゃ無理だな……悪い』
「……いや、こっちこそ。無神経だった」
『気にするな。えーと、だけど、すまん。今日のところはこれで勘弁してもらっていいか?』
 中澤さんを宥めながらだろう。田宮がそう言う。
「うん」
 わたしもこれ以上平静を装うのは限界にきていた。
『おう。悪いな。明日の晩、少し遅くなるかもしれないが時間、とれるか?』
「うん」
『そのときまでに明子にも聞いておく。じゃあ』
「うん、おやすみ」

 通話を終え、わたしは震える手で受話器を下ろした。
 さして重くもない受話器が、やたらに重い。
 うまく定位置に戻せずに、がちゃがちゃと音を立ててしまう。
 やっと置いた受話器から、しかし今度は指が離れない。
 そうとうの力をこめて握り締めていたようだ。
 一本ずつ、反対側の手でほぐすようにして引き剥がした。

 兄さん、と声を掛けられたことに気づいたのは随分してからのことだったと思う。
 電話の前で立ちすくんでいたわたしに、洋がゆっくりと近づいた。
「……気づいてなかったんだね」
 辛うじて頷くことができた。
 気遣うような洋の視線を受け止めきれず、わたしは下を向いた。
「鬼なんて見慣れてるのになあ」
 声が震える。自嘲にさえ失敗した。
 知人を亡くすのはこれが初めてではなかった。
 亡くなった知人の鬼となった姿を見るのも、もちろん初めてではない。
 名残を惜しみながら、遠のいてゆくその気配を見送ったこともある。繰り返し何度も、何度もだ。
 だが、鬼となった知人に、そうとは知らずに接したことはなかったのだ。
 この衝撃を、なんと言い表せばよいのか。
 恐怖ではない、嫌悪でもない。
 だが身の内からわき上がる震えをとめられない。
 膝が砕けるその一瞬手前で洋がわたしの背を支えた。

 洋が何か真言を唱え、わたしの背を軽く叩いた。
「一度離すね」
 言われてから気づく。
 緩く、しかし肌に沿うように思念の残滓がまとわり憑いている。「彼女」だ。
 こんなことにさえ気づかないほど、わたしの思い込みは大きかったのか。
 器用にそれらをわたしから引き剥がし、洋は封じてゆく。
「この間視たときには、これほどとは思わなかったから……」
 わたしの知己でもあったことだし、だから見逃した、ということだろう。
「こんなことなら、あの時」
 さっさと封じてしまえばよかったと言いかけたのだろう。洋が続く言葉を飲み込んだ。
「これ、放っては置けないね……悪い気を帯びはじめてる」
 悪い気を帯びている、とは随分言葉を選んでくれたものだ。
 止めようのない哂いに襲われた。
「帯びてる? 違う。そのものだ」
 気付かされてみれば、わたしにもよくわかる。
 これだ。
 わたしを蝕もうとしていた、これがその原因だ。
 悔いに満ちたこの念の大本が何であるのか、わたしはもう知っている。
 洋が念を読むようにつぶやいた。
「もしも、に凝り固まってる。今を『間違い』として、違えられた時を取り戻そうとしている」
 わたしは頷いた。深くわたしの内に入り込んだ『彼女』はひたすらにそれを願っている。
「彼女にとって正しい過去の、最後の標が兄さんなんだね……凄い執着だ」
 そして彼女の思いを拾い出し、小さくつぶやいた。
「『もしも、あのとき』……」
 人であれば「もしも」は決して事実とはなりえないことを理解できる。
 だが唯一つの思いに凝る「鬼」にそれはできない。
「こういうのを豹変って言うのかな。こんなにも凄まじい執念は感じなかったのに。いったい何があって……」
 そうだ。最初に出会ったあの日の彼女には、確かにこんな気配はなかった。
 ただ懐かしく過ぎた日々を慕うだけだったあの思念が、こんな風に変じてしまった理由。
『ねえ、知ってた?』
 中澤さんの、微かに責めるような口調が耳から離れない。
「……わたしだ。わたしがきっかけになった」
「兄さんが」
「わたしが見鬼でなければ、こんなことにはならなかっただろうな」
 違う。最初から鬼だとわかってさえいれば。
 そしてここへ帰らない理由を「仕事」などと言ってしまわなければ。
 違う理由を告げていたならば、彼女がこんなにも急に変じることはなかっただろう。
 彼女をこのままにしては置けない。
 わたしが一因であるならなおさらだ。
 しかし……凝りを晴らしてやることができなければ、どうしたらいいのだろう。
 封じるのか、散らすのか、祓うのか。旧知を相手にわたしにそれができるのか。
「どうしたら」
 躊躇うわたしに洋が言った。
「今はまだ一刻を争う様子ではないから」
 彼女の執着がわたしにだけ向けられているならば、と続ける。
「かえって気楽だと思わなくちゃ。他の人には大した影響を及ぼさないからね。兄さんの都合が許すなら、二、三日様子を見ながら対応を考えるのはどうかな。明日、田宮さんと話をしてからどうするのか決めても遅くはないんじゃない?」
 詳しいことがわかれば無理強いをしなくてもすむ方法が見つかるかもしれない。
 そうであればいい。
 無言で頷いたわたしに洋は聞く。
「もし兄さんの気が進まないなら、俺がこの件を預かってもいいし」
 彼女とはなんの関わりも持たない洋のほうが、もしかしたら上手くことを収めることが出来るのかもしれない。だが
「そんな後始末までおまえに任せるわけにはゆかないよ。わたしの問題なんだから」
 答えると洋はあっさり引き下がった。
「そのほうが兄さんの気が休まると言うなら」
 そのとおり。これはわたしの気休めでしかない。それでも人の手に任すことはしたくなかった。
「じゃあ、今日はもうゆっくり休んで」
 兄さんを頼むよと洋が麦を撫でる。
「当然」というように、麦が軽く鼻を鳴らした。

 入浴を済ませたあとは洋に言われるまま早々に布団に入ったが、眠れるはずもない。
 何かを考えれば今は必ず後悔を伴う。
 わたしの表面に纏わりついていた気は洋が祓ってくれたが、後悔はわたしの内にしみ込んだ陰の気を刺激するだろう。
 そう思い何も考えず、腹の上で丸くなっている麦を撫でながら、ただただぼうっと過ごしたのだが、結局まんじりともしないままに夜は明けた。
 洋の撞く鐘の音にわたしはよろよろと布団を這いでる。
 まだあたりは暗い。しかし祥子さんが朝食を作りはじめたのか、俄かに家の中が活気付くのを感じた。
 寝返りさえ忘れていたのか、体が固くなっている。
「手伝い……しなきゃ」
 畳に手と膝をついたまま呟く。横で伸びをする麦に倣って背筋をのばすと心地よい痛みとともに、全身を血がめぐり始めた。
 立ち上がり障子を明ける。小さな紙片がはらりと落ちた。
 見れば鬼除けの呪符だ。
 洋が書いたのだろう。
「……」
 よほど心配させてしまったようだった。
 拾い上げ懐にしまい、わたしは顔を洗うために洗面所に向かった。
 通りしな、母の桜を見る。
 薄い明かりのなか、ほっそりとした姿がそこにある。
 記憶の中にあるあの古木とはまるで違う。だが気配は変わらない。
 穏やかな、包み込むような優しさを感じる。
 微かな風に含まれる樹木の匂いにほっとした。
 暗がりに慣れた目に、木の傍らに立つ人影が映った。
 隆正さんだ。
 見鬼であることを悔やんだこともあると隆正さんは言っていた。それでも見鬼でなければ得られないものがあったとも言った。
「見鬼でなければ、か」
 見鬼でなければ、わたしは彼女と再会しなかった。
 おそらく彼女が亡くなったことも知ることはなく、当然、十六年前に別れたきりその後の彼女を知ることもなかった。知ろうともしなかったに違いない。
 なぜなら彼女との関わりは、わたしにとってすでに完結を迎えたものだからだ。
 何かの折にふと思い出すことはあっても、思い出さないことが日常だったろう。
「わたしに、何ができるだろうか」
 寄り添う二つの人影からそっと目を離し、わたしは再び洗面所へと向かって歩きながら自身に尋ねた。
「何か……そう、彼女の凝りを解いて、帰すことができれば」
 細波のときのことが思い出された。
 鬼は精錬された思いの凝りだ。
 ただひとつの願いのためだけに、そこに在る。
 その鬼の、凝りを解くことができたなら、鬼は己を取り戻し、あるいは天地に還ってゆくこともできる。
 しかし細波を凝りから解くことができたのは、「違えられた約束が叶うことはない」と彼女自身がよく知っていたからだ。
 朝霧にけぶるあの丘で遠い約束の結末を見取った細波の澄んだ悲しみを思い出す。
 彼女の悲しみを少しでも癒したいと願った水神様との固い契りもあった。
 川畑さんに、そられはない。
 ひどく難しいことはわかっている。
 それでもただうち祓うことにだけはしたくないと思った。

 洋は昨晩の一件について、誰にも言わないでくれたようだった。
 隆正さんたちから何事か言われることもなく、夕方までをゆっくりと過ごし、わたしは田宮と会うために外へ出た。
 洋はついてくるかと思ったが「俺がいたんじゃ話ができないでしょう。一応、話が終わったら連絡して。迎えにくるから」と言い、待ち合わせた居酒屋の前でわたしを車から降ろすと帰っていった。

 田宮から聞いた話は特別なものではなかった。
 離婚に至る経緯も、特に事件があってのことではない。
 共有する時間が失われ、次第に心が離れた。互いに近づける努力はしたが、実らなかった。
 そして彼女は故郷に戻った。
 もっとも、と田宮は言う。
「明子の話では帰ってくる前の一年は別居だったらしいから、他にも何かあったかもしれないな」
 苦いものでも噛んだような表情には、別居に至るまでの詳細を明子さんではない人物から聞かされた様子が窺えた。
「……親友に嘘を吐ける人じゃないだろ」
「嘘は言えなくても、隠し事はできるからな」
 心配をされたくないと思えばなおさらだ、と田宮は酒をあおる。
「戻ってしばらくは実家にいたんだが、手狭だったのもあって――甥姪が四人もいたんじゃな。ひと月くらいで家を出た」
 近くに借りたアパートから実家に通い、家業を手伝って暮らしていた。
「店を手伝うことも少なくなかったが、生花の配達を主にしてたって話だ」
 彼女も同じことを言っていた。
「実家の居心地も、よくはなかったんだろう。で、最初は店でアレンジした花を届けるだけだったらしいんだが」
 届け先のホテルや式場で何度か花を生ける機会があり、その手腕と仕事ぶりが気に入られた。
「向こうで勉強していたことが役に立ったって話してたらしい」
 あの2年も無駄じゃなかったと思いたかったんだろう、と田宮が哀れむように小さくつぶやいた。
「ともあれ独立も見えてきた、その矢先にあの事故だ。転落した先は藪の中。交通量も少ないうえに雨の夜では、早々に見つかるほうが不自然だ。それくらい悪条件が重なった」
 半日以上が過ぎて見つかったときには、反転した車内で、積荷の花に沈むようにして息を引き取っていた。
 日倉に向かう途中の山道に見た残菊を思い出した。
 やけに鮮やかだったあれは、誰かが彼女に手向けた思いの凝った姿だったのだろうか。
「あの晩……これは言わないほうがいいのか」
 田宮が言いかけて黙る。
 言えよ、とは言えず、田宮の判断をわたしは待った。
「誰にも言ったことがないんだ」
 それからさらに数十秒の間をおいて、田宮はわたしに聞いた。
「隈田が……隈田のことは覚えてるか?」
 わたしが頷くと、田宮は先を続ける。
「事故のあった日、隈田があいつにプロポーズをした。その場で断られたらしいんだが」
「へぇ!?」
 深刻な話の最中だったがわたしは頓狂な声をあげてしまった。
 すかさず謝ると、田宮からも軽い苦笑が返ってきた。
「俺も話を聞いたときは、それとまったく同じ声を上げた。夕方あいつから半泣きで電話がかかってきて、それから明けて昼過ぎまで二人で飲んだんだ。……断るときに、隈田には『裏切られたくないから』と話したらしい」
「裏切られたくない……」
「裏切られたんだろうな」
 田宮がまた酒を煽った。
 彼女の傷心を思い、隈田の傷心を慰め、そして事故を知らされとき、田宮や隈田が味わった衝撃は如何ほどだったろう。
「……」
「そういうことで、俺も気になっててな。ずっと」
「悪いことを聞いた」
 いや、と田宮が笑う。
「荷を降ろした気がする。まさか明子には聞かせられないからな。隈田が余計なことを言ったせいだ、とも言い出しかねん」
「まさか」
 明子さんならむしろ、どうして引き下がったのだ、そのまま放さなければよかったのにと言うのではないだろうか。
 そう言うと田宮は淡い笑みを浮かべた。
「ああ、明子ならそう言ったかもしれないな」
 空になった田宮の猪口に酒を注ぐ。お前もと言われ互いに一杯を飲んだところで田宮が言った。
「なあ、仰木……川畑の墓に参ってやってくれないか」
「それはもちろん」
「それと隈田にも、会ってやってほしい。それでひとしきり罵られてやってくれれば、ありがたい」
 どうしてと思うかもしれないが、と田宮はわたしの顔を正面から見つめた。
「俺もあいつも、川畑が好きだったんだ。俺にはもうとうに思い出だが、あいつはまだな……ほんのガキのころからずっとだったらしい。今も引きずってる」
 覚えてるか、あいつがおまえにぶっ放したスパイクサーブを、と田宮が言う。
「……どれのことだ」
 心当たりが多すぎる。
「最後の練習日だよ。コントロールが悪くておまえの隣にいたゆずの君に向かって飛んでっただろうが」
 あのとき隈田があれをしなければ、俺が後ろからお前の背中を蹴飛ばしていたかもしれない。
「ぬくぬくとベンチに、それも毎度隣に陣取りやがって、と。それくらいには、おまえ、恨みを買ってたんだ。だから、ここはひとつ罵られてやってくれ。『おまえがここに居さえすれば、彼女もここを離れなかった。全部おまえのせいだ』と、一度でいい。八つ当たりを受けてやってくれ。頼む」
 コートに立てばわたしは隈田からの集中砲火を受けた。
 単にわたしが一番崩しやすいからだと思っていた。
 テーブルに手を着いて頭を下げる田宮に、わたしは頷いた。
「二発くらいなら、唯で殴られておくよ」
「あの隈田相手に大盤振る舞いだな」
 田宮が軽く笑った。
「そうでもないよ」
 自分のことで手一杯だった日々に、わたしの友人でいてくれた人々のために、それくらいは報いたかったのだ。