鬼喰 ― たまはみ ―

白珠

 聞こえていた。
 聞いていた。
 なぜなら、それはわたしの「和(なぎ)」だったから。
 わたしの荒ぶる気を静め、ひととき穏やかな流れをうむ稀有なもの。
 巫(なぎ)として捧げられた数多の慰めのなかで。
 ただ一つ和(なぎ)たりうる、いつくしきもの。
 そこにある、それだけで、和(なぎ)たるもの。

 その声なき、声。

 強く聞こえては、また、悲しみの淵に沈む。

 それはまるで、波のように。
 寄せては引き、引いてはまた寄せる。
 くりかえしくりかえし暗く揺れ、わたしを呼び起こす。

 憎い、と 叫び、愛しい、と 泣く。

 果てのないほどに揺れ惑い。

 そのたびに心の澱は降り積もり
 映すように心はいたく澄んでゆく。

 ああ、それは、その様は。
 わたしの中にも、揺れを生む。
 さざめく水面に流れ行く悲しみに耐えかねて。
 おいでとのばしたわたしの腕に、すがるように飛び込んできた、わたしの宝珠。
 大切に抱きしめて。
 水の底までつれて行こう。

 ごらん。
 暖かくゆるい流れを。
 見上げる水面のやわらかな光を。

 そして、わたしを。