第1章 竜との遭遇 (6)

「おかえりなさい」
 廊下をあるく一行の前に、忽然と美女が現れた。少なくとも、男にはそう見えた。
 結い上げた長い髪は極上の真珠色。美しいうなじ。アイスブルーの瞳。艶やかな桜色の唇。銀色のチャイナドレス。柔らかな印象の細い腕。丸みを帯びた、しかし華奢な肩。首筋から腰への素晴らしい曲線。スリットからのぞくすんなりとした足。白い肌。まばゆいばかりの美人。絶世の、と形容しても反論は誰の口からも出ないだろう。
 ため息さえも飲み込んでしまうような艶やかさに、男は視線をさまよわすのだが、どうしても眼前の美女の上を視線は上下に移動するだけで、その花の顔にうろたえ、絶妙な脚線美にとまどい、解決にはならない。
「帰ってたの、花散里」
 うれしそうに駆け寄った少年は美女に抱きついた。子猫がじゃれるような喜びようだった。
 花散里、花散里……その名の響きに男は記憶を手繰る。
 源氏物語だ。
 そう、名前だけでほどんど姿をさえ描かれなかった源氏の妻。
 なるほど、筆舌尽くしがたし、ときたか。
「ええ、花紫から伺いましたの。それで急いで帰ってきましたのよ。こちらの方ね」
 少年を優しく撫でながら、花散里は男に向かって微笑んだ。そのとろけるような微笑に、男が自覚なしに笑み返したとき。
 と、男の後ろにいた青年がつかつかと花散里と少年に近づくと、右手で少年の首根っこを、左手で花散里の右肩をつかみ、引き剥がすようにして二人を分けた。
 あら、ひどいわとつぶやく花散里には目もくれず、男を振り返ると青年は言った。
「詳しい話は明日にでもしよう。だが、依頼の概要は聞かせてもらいたい」
 その言葉になんとか花散里から視線をはがした男は、青年を見てまた仰天する。明るいところでしっかりと青年を見たのはこれが初めてだったのだ。
 そこには、汚れてはいるが、彫像のような青年がいた。明るい翡翠色の右目、深い瑠璃色の左目。通った鼻梁、整った口元。男ほどではないが、なかなかの長身。そして、実にすばらしい、均整のとれた体格。無駄を一切省いて、機能と視覚効果を双方に保つそれは、綿密に計算された上に作られた作品のようだった。女性的ではないが、繊細で緻密な印象をうける。純粋に造形の美を比べるならば、花散里に勝るだろうか。
 しかし、男の性か、この衝撃からは割とすばやく立ち直った。半開きになった口を即座に引き結ぶ。どんなに美しくても、野郎に見とれるのは生理的に受付けなかったらしい。もっとも、これが本当の彫像ならば、男は飽きることなく数時間は、いや、満足げに半日くらいは眺めていたに違いないのだが。
「ここでか?」
 廊下のど真ん中で男は首を傾げた。
「ここで」
 言いながら青年は近くの扉を開けた。どうやら客間のようだった。
「OK」
 男が部屋に入ると、青年は石涼に言った。
「医療スタッフを呼べ。それと軽い食事と、飲み物を」
「いいえ、医療スタッフは結構よ。私が診ます」
 二人の口調は明らかに命じているようだったにも関わらず、石涼は無言で頷くと、きびすをかえした。そのどこにも不自然さはない。と、いうことは、それはあたりまえのことなのだ。おそらく命令口調に聞こえたのは、エリシュシオンのことばに不慣れなせいだろう。WS言語もESの一部の出身の者には、叱られているように聞こえるという。
「何から、話せばいい?」
 クラシックなソファに腰をおろした男は、少年に聞いた。彼が一番、緊張しなくて済む相手のように思えた。
「うん。そのまえに、顔だけ洗わせてね」
 少年は部屋の奥にある流しにまっすぐ向かう。見捨てられたような気分で少年の方を見ていると、花散里が彼の腕を取った。
 花散里は手際よく、男の怪我の様子を診ていった。片膝をついた花散里の顔から、男は随分と努力して視線を剥がし、再び少年を見る。まだ、洗顔中だ。視線は少年の方を向かせることに辛うじて成功したが、鼻腔をくすぐる花散里の髪の香りに今度は囚われないように気を張る羽目になる。
「……痛くないんですの?」
 不意に花散里から声をかけられて、男は驚いたように肩を跳ね上げた。
「彩の谷から、歩いて? この傷で? なんて無茶をなさるの」
 花散里のことばに顔を洗い終わった少年がタオルを肩に下げたまま、男の傷を覗き込んだ。
「うわ、なに。これ……大丈夫なの?」
 男の胸のあたりは、どす黒い紫色に変色している。内出血のために。
「この程度は、まあ、日常茶飯事っていうか。大丈夫なうちに入れてるんだ」
 男の口調に無理をしている様子はない。にこやかな返答に、少年は安堵と呆れの入交じった表情でため息をついた。
「話するの、明日でもいいんだよ。休んだほうがよくない? 追い出したりしないし」
「いや、本当に平気。ケガにはなれてるんだ」
 少し悩む様子を見せたが、少年はわかったと頷いた。
「それじゃ、まず、名前。出身と職業を聞かせてもらえる? それから、ええっと、依頼内容……で、いいんだっけ。」
 青年を振り返った少年の質問に、彼は深々とため息をつき、そのあとで頷いた。
「余裕があるなら、その簡単な経過もぜひ聞いてくれ」
「だってさ」
「名前はジェスター・A・ディーン。出身はテラ。職業は……今は、失業中。あ、でも、貯蓄はかなりあるから支払のほうは心配しなくてもいいぜ。今すぐリアルマネーでってわけにはいかないけど、少し時間がもらえるなら、換金できる。ええっと、依頼内容か。内容は」
「待ってくれ、ジェスター・A・ディーン、だと」
 青年が正面のソファに座りかけたまま、動きを止め、立ちなおした。
「テラのジェスター・A・ディーン。ハンター・J、か」
「四ヶ月前まではな」
 男の返答に青年の表情が苦々しく変化した。舌打ちこそしなかったが、口の中の苦虫は半ダースはいるだろう。
「知っていたのか」
 青年のことばが向けられた相手は、花散里だった。言葉面は、疑問形だったがどうして言わなかったのだ、と叱責する内容だ。丁度手当てを終えた花散里は優美な仕種で立ち上がると、青年の目を真正面から見つめて言った。翠燕より人差し指一本分ほど花散里は背が低いが、それでもテラの男性の平均身長はありそうだった。小二秒半の間をおいて、花散里は口を開いた。
「あら、ご存じなかったの。では、確かめる事もされず、ご案内なさったのね? あなた」
 花散里のやんわりとした、しかし容赦ない切り替えしにあって、青年は絶句する。
「私は存じておりましたわ。ええ、もちろん、彼の素性も含めて。今朝、花紫から連絡を受けていますもの。でも、その後こちらにご連絡をしましたけれど、あなた、もうお出かけでしたでしょう。しかも何度コールしても、無視。いつお話する機会がありまして?」
 険悪にも近い空気が漂う二人の間に、少年が割って入った。
「いいでしょうが、どうだって。そんなことは。もう、ここまで案内しちゃったんだし。そんなことよりも、どうするの。ジェスターの話を聞くの、聞かないの」
「どうでもいいというわけには、いかないだろう」
 青年は、花散里をかばうように立つ少年に、困惑の表情を浮かべ諭すように言った。
「政府お抱えのAG’(ダッシュ)のハンターだ。俺たちにとっては敵にも等しい」
「いや、だから、俺はもうハンターじゃない、って」
 ジェスターは、青年に手をひらひらと振りながら言った。
「これが原因でね。私闘許さず、って社則にひっかかっちまったのさ」
 ゆっくりと偏光グラスを外す。みどりがかった水色の瞳が現れた。ただし、左のみ。右目は額中央から頬骨の少し下まで走る裂傷のため、失われていた。偏光グラスに見えたものは、右目の視力を補うためのベハンドルング・スコープ、視力矯正機だったらしい。左半面が整った面立ちなだけに、その傷痕は一層凄惨だ。少年は呼吸も忘れて立ち尽くした。花紫から話を聴いていた花散里でさえ、わずかに唇を震わせただけで、ことばを発する事ができなかったのだ。ジェスターはゆっくりとグラスをかけ直した。
「まあ、狩に出られなくなったハンターを飼っておけるほど、AG’も裕福じゃないってことさ」
「それが真実だという証拠はどこにある」
 青年だけはこれといって何の感想もないらしく、不躾ではないが、遠慮のない眼差しでジェスターを見た。
「……そうだな、証拠はないな」
 ジェスターはソファの背に身を預けたまま言った。
「で、どうするんだ、俺を」
「ちょっと、いいかげんにしろっての」
 少年がえらく不機嫌な様子で、青年に言った。
「話も聞かずに、何、それ。だいたい、ジェスターを疑うって言うのは、花紫を信じないってことだし張白鶴を信用しないってことだろ。それはつまり、花竜(ファルン)を信じていないってことだな?」
「そうは言っていない。だが、人は誰しも騙される。注意深い人間も、一生に一度や二度は、騙される。その一度が、今回かもしれないと、……可能性の問題だ」
 十秒ほどして、少年が頷いた。
「うん、そうだね。そうかもしれない。だから、俺は彼の話が聞きたい」
 聞いた後の事は後で考えるさ、ねえ、花散里、と少年はとなりに立つ美女を見上げていった。少年は花散里より、頭一つ分低い。花散里は実に優しく、にっこりと微笑んで、少年の頭を撫でた。
 青年はその光景からうんざりしたように視線を外し、ジェスターに向かいこう言った。
「で?」
 で、とはまた、随分な促し方であるが、ジェスターは気分を害すことはなかった。
 まあ、こうもお人好しで素直な少年の保護者としては、どこまでも疑ってかかるのは当然というものだ。
 ちょうどそのとき食事と飲み物が運ばれてきたので、四人はひとまず席に着いた。
 意外にも手の込んだ料理を口にしながら――毒殺を恐れるどころか疑う様子もなく、ジェスターはよく食べ、よく飲んだ。花散里が傷に障るからと制止しなければ、酒も呷るように飲んだだろう――彼は話した。
「俺を逆恨みした馬鹿が、俺を襲った。俺の元恋人が俺をかばって巻き添えをくった。報復のために俺はそいつをあの世に送り、クビになった。その後、病院にいた彼女がさらわれた。慣れない調査に手間取ってる間に、二ヶ月が過ぎた。最近、彼女を見たという情報を掴んだ。テラ発イーヴァ行定期船、トラヴァーII、403便で」
「トラヴァーII、403便……擁焔がつい最近襲った船だな。なるほど。停戦の調停に向かうカリュオンの特使が乗っていた。おかげでイーヴァとロタの戦争は泥沼だ」
 納得したらしい青年とは反対に、花散里は眉根を寄せた。
「ひとつお伺いしてもよろしい? その方、本当にさらわれたのかしら、ご自分の意志であなたのもとを去ったのではなくて?」
 もしそうなら、仮に擁焔のもとから救い出すことができても、あなたのもとには戻らないかもしれないわ、と小さく付け足した。
「彼女に意識があれば、そうだったかもしれない。俺に、最後通達を渡した直後だったからな。だが」
「女に意識はなかった、と」
「そうだ」
 ジェスターが首をゆっくりと縦に動かした。
「取り返しに行くんだ?」
 少年の問いかけに、ジェスターは笑おうとして、出来なかった。頬が中途半端に震えただけ。しかたなしに、ああ、と頷き、ひとつしかない瞳をふせる。「それが可能なら、な」
「そっか、そういうことか……よし、話も聞いたし食事もとったし、俺は寝る」
 少年は唐突に立ち上がり、ドアを開けた。
「フェイ!」
「だって、これ以上聞くことないもん。俺はジェスに協力したいと思ってる。後はまかせたから」
 手首を掴む青年の頬に軽くくちづけて、おやすみ、という。虚を突かれたのか青年がぎょっとして身を引いた隙に少年はするりとその手を抜けて、ドアの向こうに消え去った。
「わたしには挨拶なしなんて、ずるいわ」
「……あれに、こういうことを教えたのは、貴様か、花散里!」
「じゃ、わたくしたちも、休みましょう。お部屋にご案内しますわ、ディーン様。こちらです」

 怒りにふるえる青年を置き去りに、花散里に案内され、ジェスターは客間を出た。
「よかったのかな、彼。放っておいても」
 ジェスターは廊下を歩きながら振り返る。静まり返った室内で、青年が静かに怒っている姿を想像して、少し心配になった。
「かまいませんわ。あれで結構、寛容ですもの。わたくしやフェイには」
 怒っているようで、なお、特に反撃もしなかった彼の様子を思い出し、ジェスターは頷いた。
「うん、仲、良さそうだしね。楽しんでた?」
「だって、面白いんですもの」
 婉然と微笑んで花散里は言った。
 媚態でも作為でもない、天性の官能が彼女には存在する。
「君は……『姫』?」
「そう見えまして?」
「ああ……って、ごめん、失礼な事を。いや、そうじゃなくて、なんか、花紫と似てるし、……ごめん、その雰囲気が」
 狼狽しきりのジェスターに、花散里はくすくすと笑う。そんなささいな仕種さえ匂い立つような艶がある。
「いいえ、よろしくってよ。わたくしたちは『姫』であることに誇りをもっておりますもの、光栄ですわ。それに」
 花散里は、目に涙まで浮かべて笑っていたが、その笑顔を不意に収めた。
「わたくしは『月亮』ほか、花竜後宮七つの城を治める者。城主、と言っておわかりになりますかしら」
「ああ」
「では、花竜の双璧についてお聞きになったことはございまして?」
 花竜の双璧。
 花紫や張白鶴は何も言わなかったため、その噂はガセか嘘だと信じていたジェスターは、アルキュオネスの酒場で耳にはさんだそれをすっかり忘れていた。
「……ええっと、たしか二人とも絶世の美形で、ひとりは女性とも見まごう……」
 そこまでつぶやいて彼は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「それじゃもしかして、君は……まさか君が」
 くすと笑った花散里の、まとう空気が一変した。
 たちどころに官能的な雰囲気が消え去り、濡れたような眼差しが清冽な光を宿す。やわらかなアルトの美声はそのままに、男性的な響きが顕になる。浮かべる微笑さえもが変化した。瓜二つの別人に摩り替わったようにしか思えない。そう、今、眼前にいる花散里は、とてつもなく美しい男だった。
「曹連幸(ツァオ リェンシン)と申します。よろしく」
 口を開けっ放しにしたままジェスターは差し出された右手を握り、その美しい手をしみじみと見つめ、ため息をついた。
「じゃあ、あの彼が李翠燕(リ ツォイイェン)なんだね? 双璧の片割れの」
「ええ。……そうですか、お互い名乗りもしないままここへ」
 ぴしゃんと己の額を叩いたジェスターに、連幸が笑う。
 仕方がありませんよ、フェイが関わると、そういうことはよくあるんです、との慰めにも苦笑しか浮ばない。
「お部屋はこちらです。ご自由にお使いくださって結構ですよ。では、おやすみなさい」

 すばらしい夢にうなされて、ジェスターはかなり早朝から起き上がることになった。
 いままさに昇りくる日の出を見ながら、一昨日来自分の身の上に起きた驚異を数えてみる。
 嫌になって途中で止めた。
「随分早いお目覚めだな。寝心地が悪かったか」
 かけられた声に振り返ると、李翠燕がそこにいる。
 寝ぼけ眼のジェスターと違い、翠燕はすでに身支度済みだった。金色の朝日に、黒髪が硬質な光沢を放つ。薄汚れていた昨晩も充分に美しかったが、こうしてあらためて検分すると、李翠燕という人物は鑑賞するに値する美貌だった。それは、石から作られた彫像のように無機的ではあったけれど。
「おはよう。あんたも早いじゃないか。べっぴんさん」
 挨拶をかえしたジェスに、翠燕は少し眉根を寄せた。
「なんだ、それは」
「いや、なんでも。ブ男の僻み」
 全体的にむくんでいるジェスターの顔を見て、納得したのか――よく考えれば、非常に失礼なことに――青年は、頷いた。
「本当に寝不足のようだな。傷が痛んだか」
「いや。全然。しっかり寝ましたとも。眠って、夢を見たんだよなあ」
「ふむ」
「花紫さんが男だったって夢をね、……悲鳴をあげて飛び起きた、と。そういうこと」
 あらためて寝直す気にもなれず、彼は未明の散歩に出たのだった。基地は斜面に沿って造られているため、中庭の南の岩棚に腰掛けると、北から昇る白金の太陽が見える。徐々に白くなる紺色の空に目を奪われて、ジェスターはここに腰を下ろしたのだ。
 隣に座った青年が、笑いを堪えているのを見て、ジェスターはため息をついた。
「たまらんね、実に。美女が男で、かつ君らが花竜の双璧とは。これはおそらく、俺でなくとも、かなりの衝撃を受けるだろうな」
「そうか」
「今、つらつら考えてみると、どうも謀られた気がするよ。張さんも花紫さんも、その辺の事から故意に論点をずらしていたように思える。まあ、どちらにしろ、俺の失態だけどな」
 昇りきった太陽を見つめたままジェスターは言った。
「タルタロスってあの子は言ったけど、俺にはどうもワンダーランドだ。なんだか、もう、よく、わからない」
 頭を振り、おおきく息を吐いたジェスターは、そのままがっくりと膝の間に首を落とした。
「主観によるし、主観はそのときの気分に左右されるからな。あいつだってここがタルタロスだとは思ってはいないだろう。……外を知らないせいだとも思うが」
 昨晩と違い、翠燕の話し方は幾分か穏やかだった。
 その事を問うと、彼はこう答えた。
「お客様だからな」
 昨日は不審人物だったということか、と思ったが、ジェスターは頷くだけに留めた。
 そんなジェスターには構わず、翠燕は立ち上がると、岩壁を見上げる。
「なんだ、起きてきたのか」
 視線の先にいるのは昨晩の少年だった。少年は身軽に岩壁を降りてきた。まるで小鳥のようだ、とジェスターは思う。
 少し上の出っ張りに腰掛けた少年は、ジェスターと翠燕に手を振って挨拶した。
「おはよう、ジェスター。おはよう、翠燕」
「ジェス、でいいよ。親しいヤツはみんなそう呼ぶ。おはよう、フェイ。……フェイ、でよかったっけ」
「ああ、そうか。自己紹介まだしてなかったね。そういえば」
 ぺろり、と舌を出した少年は、腰掛けていた岩から、弾みをつけて飛び降りた。ジェスターの眼前に、小さな足音と共に降り立った少年は、右手を差し伸べながら言った。
「花斐竜(ファ フェイロン)。多くの人は花竜(ファルン)と呼ぶよ。よろしく、ジェス」
 燦然と輝く太陽を背に、少年は実に格好良く決めてくれた。対して、ジェスはもう何度目なのかわからないくらいだが、もういちど豆鉄砲をくらった鳩のような顔をして、ああ、どうも、としか言えなかったのだ。