«La Historia | 天体観測 | イマルークを継ぐ者»
■タイトル:天体観測
作品URL:
■著者:立田さん
サイト:トリナキウヲノメニナミダ(05年9月閉鎖)
■キーワード/現代,心理,切ない
■あらすじ
亡くなった祖父の部屋を片付けていた「僕」は、一通の手紙を見つける。
贈られることなくしまいこまれた手紙は、宛名もなく未完のまま。
星を教えてくれた祖父が、星を見に行きましょうと真摯に語りかけた人は、祖父にとってどんな人だったのだろう。
■はじめて読んだとき、その美しく切なく哀しく、けれど温かなお話に、ちょっと涙目になってしまいました。
「天体観測」は一人の人物を、多数の人の目を通して描くオムニバス。
妻から見た夫、娘から見た父。
ただ一人の人が残した記憶と思い出のお話です。
【天体観測】
半ば永遠に続くと思っていた祖父との関わりは、その死によって唐突に終わりを告げます。いろいろな事情があって疎遠になってしまった祖父の記憶が、その瞬間に蘇る。
半透明の薄い障壁の向こうにいたはずその人との、あまりにも鮮やかな思い出が心にしみました。
長じてから知った祖父の姿は、まるで紗がかかったようにぼんやりとしているのに、幼い彼は祖父の確かな姿を見ていたのだと思うと、その切なさには痛みさえ覚えます。
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【バロン・デセーの解放】
どうぞと譲ることなどできない。
けれど繋ぎとめることもできない。
ならば失う前に手放してしまおう。
その葛藤に、彼女がいかに彼を愛していたのかが窺えてなんとも切ない気持ちになりました。
孫が「半透明の薄い障壁」の向こうにいると感じた彼を、彼女は「追いかけても手に入らない」人だと感じていた。
これは想像でしかないのですけれど、彼は彼女を愛していなかったわけではないと思うんです。
でも、彼の不器用な愛は彼女には伝わらなかった。
あるいは彼の夢を、彼女は共有することができなかった。
彼女は、自分の夢――彼とともに彼女にとって幸せな家庭を築くという夢――を追うことに手一杯になってしまっていたのかもしれませんね。
追うことに疲れ、手放してしまうことを決意した彼女が見上げた空は、真昼の青空。
そこには雲もなく、星もなく、ただ鮮やかに青い空がある。
それが彼女の哀しみの深さをあらわしているようで、目頭が熱くなりました。
彼が夢見る夜空との対比も鮮やかです。
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【オオカミ階段】
父がしてくれたのは他愛のない童話のようなもの。
それを「嘘」であったと表現するのは彼女の「痛み」ゆえのことかもしれません。
たしかにおとぎ話も現実でないという一点から見れば「嘘」であることに違いはなく、長じるにしたがって「事実ではなかった」という真実に気づいてゆく。
それでも真実を知った後も、彼女は父が語ってくれた「嘘」が好きだったといいます。
辛い現実よりも優しい嘘がよかったという彼女の心には、今もまだ父親を求める少女が住んでいるのかもしれませんね......。
おとぎ話に守られていた幼い彼女と、もはやその助け得ることはできない彼女。
「天体観測」で彼女の息子が見る彼の姿とあわせて思うと、因縁めいた何かを感じます。
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■人は見たいものをみる、と言います。
彼が彼の夢を見ていたように、妻は彼女の考える「夫」を彼の上に夢見ていた。
娘は彼女の望む「父」を彼の上に描いていた。
そして孫はかつて「彼」自身を見ていながら、時の中に見失ってしまっていた。
そういうことなのかな、と。
誰も彼を否定したわけではありません。
それどころか、誰もが懸命に彼を求めていたし、彼も彼を隠そうとしていたのではないのに、それでも一度違えられた思いは離れて行くばかり。
誰もが己の真実を語りながら、それでいて彼の真実を得ることはなく......。
それでもみな精一杯、真摯であることが哀しみをもどこか温かいものにしているのかもしれません。
願わくば眠りについた彼に、みなの思いが届きますように。
■懸命に真っ直ぐに追い求めることだけが近道ではないこと。
夢を求めれば求めるだけ、かけ離れてゆく現実もあること。
それは相手が逃げているのではなく、自分こそが遠ざかる方向に駆けているかもしれないこと。
そういったテーマを一連の作品に感じました。
昨今語られる家族の絆の危うさも、原因はこんなところにあるのかも。
【鳥はジブラルタル海峡を渡る】 祖父と僕とのもうひとつの思い出
(シリーズではないのですが【彗星のしっぽ】は、彼ともうひとりの彼女のお話のようにも読めるなあ、などとも思っています)
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